『働き方改革』が叫ばれているものの、多くの企業や個人が具体的にどのような対応策を示し、行動に移せばいいのかよくわからず四苦八苦しているのではないでしょうか?
ここでは働き方改革での改正事項や対応策を簡単にまとめてあります。
もくじ
- 労働施策総合推進法についての改正事項
- 労働基準法についての改正事項
- 労働安全衛生法についての改正事項
- 労働時間等設定改善法についての改正事項
- パートタイム・有期雇用労働法についての改正事項
- 労働者派遣法についての改正事項
- まとめ
1.労働施策総合推進法についての改正事項
労働施策総合推進法の目的と基本方針
- 目的
労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実、労働生産性の向上を促進して、労働者が自身の能力を有効に発揮することが出来るようにし、その職業の安定などを図ること - 法律の基本理念
・労働者に対し、職務の内容および職務に必要な能力、経験その他の職務
遂行上必要な事項の内容を明らかにすること
・労働者が上記に即した評価方法により能力などを公正に評価され、当該
評価に基づく処遇を受ける事
・その他適切な処遇を確保するための措置が効果的に実施されること
パワハラ防止対策
- パワーハラスメント防止対策法制化
・事業主に対して、パワーハラスメント防止の為の雇用管理上の措置義務
(相談体制の整備等)を新設し、あわせて、措置の適切・有効な実施を図
るための指針の根拠規定を整備
・パワーハラスメントに関する労使紛争について、都道府県労働局長によ
る紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とするとともに、措
置義務等について履行確保のための規定を整備 - パワーハラスメントの定義
・優越的な関係に基づくものであること
・業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
・労働者の就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えるこ
と) - 事業主が講ずべき措置など
・事業主における、職場のパワーハラスメントがあってはならない旨の方
針の明確化や、当該行為が確認された場合には厳正に対処する旨の方針
やその対処の内容についての就業規則等への規定、それらの周知・啓発
等の実施
・相談等に適切に対応するために必要な体制の整備(本人が委縮するなどし
て相談を躊躇する例もある事に留意すべきこと)
・事後の迅速・適切な対応(相談者等からの丁寧な事実確認等)
・相談者・行為者などのプライバシーの保護等をあわせて講ずべき措置
2.労働基準法についての改正事項
- 時間外労働の上限規制
- 上限規制適用の猶予・除外
- 時間外労働に対し企業がとるべき対応
- 有給休暇の発生要件と付与日数
- 年次有給休暇の時季指定義務
- フレックスタイム制 清算期間の延長
- フレックスタイム制導入に際しての企業の対応
- 高度プロフェッショナル制度の概要
- 高度プロフェッショナル制度の対象となる業務
- 高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者
- 高度プロフェッショナル制度 労使委員会で決議すべき項目
時間外労働の上限規制
- 上限規制の原則
原則として月45時間、年360時間(1年単位の変形労働時間制の場合は月42時間、年320時間)とされ、臨時的な特別の事情が無ければこれを超えることができません - 特別条項付き36協定
上記の『臨時的な特別の事情』
・予算、決算業務
・ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
・納期のひっ迫
・大規模なクレームへの対応
・機械のトラブルへの対応
上限規制適用の猶予・除外
- 中小企業への上限規制適用の猶予措置
時間外労働の上限規制の施行は、2019年4月1日からですが、中小企業に対しては1年間の猶予措置が認められ、2020年4月1日からの適用となります - 時間外労働の上限規制の適用が猶予・除外される事業・業務
・新たな技術、商品又は役務の研究開発に関わる業務は、時間外労働の上
限規制の適用から除外されます
・建設事業・自動車運転の業務・医師等の事業・業務については、労働時
間の上限規制が5年間(2024年3月31日まで)猶予されます
時間外労働に対し企業がとるべき対応
- 勤怠状況を『見える化』する
グラフや表など - 時間数だけでなく回数の管理
特別条項の発動回数など
有給休暇の発生要件と付与日数
- 年次有給休暇の付与日数
使用者は、労働者が雇い入れの日から6か月間継続勤務し、その6か月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、原則として10日の年次有給休暇を与えなければなりません。その後、1年ごとに1日ずつ追加された日数が付与され、3年6カ月経過後には2日ずつ追加された日数が付与され、6年6か月経過した後は最長20日とされています。 - 時季指定権
年次有給休暇は、労働者が請求する時期に与えられることとされていますので、労働者が具体的な日を指定した場合には、その日に年次有給休暇を与える必要があります。 - 時季変更権
使用者は、労働者から年次有給休暇を請求された時季に、年次有給休暇を与える事が事業の正常な運営を妨げる場合には、ほかの時季に年次有給休暇の時季を変更することができます。 - 年次有給休暇の繰り越し
年次有給休暇の請求権の時効は2年であり、前年度に取得されなかった年次有給休暇は翌年度に与える必要があります。 - 不利益取り扱いの禁止
使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければなりません。具体的には清皆勤手当や賞与の額の算定などに際して、年次有給休暇を取得した日を欠勤または欠勤に準じて取り扱うなどはできません。 - 年次有給休暇の計画的付与
あらかじめ労使協定を締結することで、5日を超える日数について、計画的に取得日を定めて年次有給休暇を与えることができます。この場合の労使協定は労働基準監督署への届出義務はありません。 - 半日単位年休
労働者が半日単位での取得を希望してじきを指定し、使用者が同意した場合であれば、1日単位取得の阻害とならない範囲で、半日単位で年次有給休暇を与えても差し支えありません。 - 時間単位年休
年次有給休暇は1日単位で取得することが原則ですが、あらかじめ労使協定を締結した場合には、年5日を限度として時間単位での取得が認められています。
年次有給休暇の時季指定義務
今回の法改正から使用者に対して年5日の有給休暇の時季指定義務が課されました。
- 対象者
年次有給休暇の日数が10労働日以上であるものに限られます - 使用者が時季指定する日数
基準日から1年以内の期間に5労働日です
なお、基準日から1年以内の期間に5労働日の付与を行わなかった使用者は、30万円以下の罰金に処せられることになっていますが、実務上は労働基準監督署からの是正勧告がなされるフローが踏まれます。
フレックスタイム制 清算期間の延長
フレックスタイム制は、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・就業時刻・労働時間を自ら決めることのできる制度です。今回の法改正によって、1か月までとされていた清算期間の上限が3か月に延長され、月をまたいだ労働時間の調整により柔軟な働き方が可能となります。
フレックスタイム制導入に際しての企業の対応
- 清算期間における法定労働時間の総枠を算出する
- 各月の週平均50時間となる労働時間を算出する
- 各月ごとに週平均50時間を超える時間外労働を把握する
- 法定労働時間の総枠を超える時間外労働を把握する
高度プロフェッショナル制度の概要
高度の専門的知識を有し、職務の範囲が明確で一定の年収ようけんを満たす労働者を対象として、労使委員会の決議および労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。
高度プロフェッショナル制度の対象となる業務
- 金融工学などの知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 資産運用の業務または有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券も売買その他の取引の業務または投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務
- 有価証券市場における相場などの動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれに基づく投資に関する助言を行う業務
- 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析およびこれに基づく当該事項に関する考察または助言の業務
- 新たな技術、商品または役務の研究開発の業務
高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者
- 使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められている事
- 使用者から支払われると見込まれる賃金額が基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること(1,075万円以上であること)
高度プロフェッショナル制度 労使委員会で決議すべき項目
- 対象業務
- 対象労働者の範囲
- 健康管理時間の把握
- 休日の確保
- 選択的措置
- 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
- 同意の撤回に関する手続き
- 苦情処理措置
- 不利益取り扱いの禁止
3.労働安全衛生法についての改正事項
産業医の活動環境の整備
- 産業医の独立性・中立性の強化
- 産業医への権限・情報提供の充実・強化
①事業者または総括安全衛生管理に対して意見を述べる事
②労働者の健康管理などを実施するために必要な情報を労働者から収集す
ること
③労働者の健康を確保するため緊急の必要がある場合において、労働者に
対して必要な措置をとるべきこと - 産業医の活動と衛生委員会等との関係の強化
健康相談の体制整備
面接指導や健康診断の結果など、労働者の健康情報が適正に取り扱われ、労働者が安心して産業医などによる健康相談などを受けられるようにするために、健康情報の事業場内での取り扱いルールの明確化・適正化が推進されることになりました。
健康情報の適正な取り扱い
- 健康情報等を取り扱う目的及び取り扱い方法
事業者が健康情報などを取り扱う主な目的は、労働者本人への健康確保措置の実施や事業者が追う民事上の安全配慮義務の履行です - 健康情報などを取り扱う者およびその権限・取り扱う情報の範囲
健康情報などの取り扱いを担当する者は、人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者、産業保健業務従事者、管理監督者および人事部門の事務担当者になります。
それぞれの担当者が扱うことができる情報の範囲は、衛生委員会などの場で労使関与のもとで検討し、事業場の状況に応じて定めることが求められます。 - 健康情報などを取り扱う目的等の通知方法および本人の同意取得
事業者は、健康情報等を収集するにあたって、あらかじめその取り扱う目的を公表しておくか、情報を取得した際に、速やかにその利用目的を労働者本人に通知し、または公表しなければなりません。 - 健康情報などの適正管理の方法
①情報の正確性の確保
②漏えい・滅失・改ざん等防止のための体制整備
③情報の消去 - 健康情報などの開示、訂正などの方法
①情報の開示
事業者は、労働者本人から、当該本人が識別される保有個人データの情
報の開示請求を受けた際には、本人に対し、遅滞なく、当該保有個人デ
ータの書面の交付による方法または請求を行った者が同意した方法で開
示しなければなりません。
②情報の訂正など
事業者は、保有個人データの訂正、追加、削除、使用停止の請求があっ
た場合で、その請求が適正であると認められるときには、これらの措置
を講じなければなりません。 - 健康情報などの第三者提供の方法
事業主は、労働安全衛生法令等の法令に基づく場合や、人の生命、身体または財産の保護の為に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難である時等を除き、あらかじめ労働者本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供することはできません。 - 事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項
事業者は、合併、分社化、事業譲渡等により他の事業者から事業を承継することに伴って健康情報などを取得する場合、安全管理措置を講じた上で適正な管理の下、情報を引き継ぐ必要があります。 - 健康情報などの取り扱いに関する苦情処理
事業者は、健康情報などの取り扱いに関して、労働者からの苦情に適切かと迅速に対応するよう努める必要があります。 - 取扱規程の労働者への周知の方法
取扱規程は就業規則やその他の社内規程等により定めるとともに、その内容を労働者に広く周知し、関係者において適切に運用されるようにする必要があります。
長時間労働者への面接指導
- 医師による面接指導の対象となる労働者要件
今回の法改正により『時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者』に拡大されました。 - 研究開発業務従事者に対する医師による面接指導
事業主は、時間外・休日労働時間が1か月当たり100時間を超える研究開発業務従事者に対して、申し出なしに医師による面接指導を行う必要があります。 - 高度プロフェッショナル制度対象者に対する医師の面接指導
事業者は、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその時間について1か月当たり100時間を超える高度プロフェッショナル制度対象労働者に対して、申し出なしに医師による面接指導を行わなければなりません
4.労働時間等設定改善法についての改正事項
勤務間インターバル制度
改正労働時間等設定改善法により、2019年4月から勤務間インターバル制度を導入することが事業主の努力義務となりました。
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務時間終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する制度の事を言います。
休息時間(インターバル時間)を設定するにあたっては下記について十分に考慮することが求められます。
- 労働者の生活時間
- 労働者の睡眠時間
- 労働者の通勤時間
- 交代制勤務等の勤務形態や勤務実態
5.パートタイム・有期雇用労働法についての改正事項
均等待遇と均衡待遇
- 均等待遇の考え方
待遇決定にあたって、『短時間・有期雇用労働者が通常の労働者と同じに取り扱われること』です。つまり、短時間・有期雇用労働者の待遇が通常の労働者と同じ方法でけっていされることを指します。 - 均衡待遇の考え方
均衡待遇とは、短時間・有期雇用労働者の待遇について『通常の労働者の待遇との間に不合理な待遇差が無いこと』つまり、①職務の内容、②職務の内容、配置の変更の範囲、③その他の事情、の違いに応じた範囲内で待遇が決定されることを指します。
不合理な待遇差の禁止
今回の法改正により、事業主が、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者および通常の労働者の職務の内容、当該待遇の性質および当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設ける事が禁止されました。
待遇に関する労働者への説明義務の強化
- 雇い入れ時の事業主の説明義務
①不合理な待遇の禁止
②差別的取り扱いの禁止
③賃金
④教育訓練
⑤福利厚生施設
⑥通常の労働者への転換 - 求めがあったときの事業主の説明義務
①労働条件に関する文書の交付等
②就業規則の作成の手続き
③不合理な待遇の禁止
④差別的取り扱いの禁止
⑤賃金
⑥教育訓練
⑦福利厚生施設
⑧通常の労働者への転換
6.労働者派遣法についての改正事項
労働者派遣法の目的と基本方針
今回の法改正により、派遣元事業主は、派遣労働者の不合理な待遇差を解決するため、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件を満たす労使協定による待遇確保、のいずれかを講ずることが義務付けられました。
- 派遣先労働者との均等・均衡方式
派遣先の労働者との均等・均衡待遇の場合、派遣労働者を受け入れようとする者(派遣先)は、あらかじめ派遣元事業主に対して、派遣労働者が従事する業務ごとに比較対象となる労働者の賃金その他待遇に関する情報を提供しなければなりません。この場合、派遣元事業主は、この情報提供が無い時は労働者派遣契約を締結できません。 - 労使協定方式による派遣労働者の待遇確保
派遣元事業主が、派遣労働者の過半数で組織する労働組合との書面による協定により、一定の要件を満たす派遣労働者の待遇を定めたときは、派遣先の比較対象労働者との均等・均衡待遇にかかる規程を適用しないことになりました。 - 派遣労働者にかかる就業規則の作成等の手続き
今回の改正では、派遣元事業主が派遣労働者にかかる事項についての就業規則を作成、または変更するにあたって、労働基準法90条で求められる事業場の労働者の過半数代表者からの意見聴取とは別に、あらかじめ雇用する派遣労働者の過半数を代表すると認められる者の意見を聴くように努めなければならない、という努力義務が置かれました。 - 派遣元事業主の説明義務
①派遣労働者を雇い入れた時
②派遣労働者を派遣するとき
③派遣労働者から求めがあったとき - 派遣先における適正な派遣就業の確保等
派遣先は、派遣労働者に対して業務の遂行に必要な教育訓練の実施や福利厚生施設の利用の機会の付与など、適正な派遣就業の確保のために必要なそちを講じなければならない。 - 紛争解決・勧告および公表
派遣元事業主は、派遣労働者から待遇面や待遇に関する説明に関し、苦情の申し出を受けた時は、自主的な解決を図るように努めなければなりません。
7.まとめ
非正規雇用の処遇改善、賃金引き上げと労働生産性向上、長時間労働の是正、柔軟な働き方がしやすい環境整備等いろいろな事が法律により定められましたが、果たしてこれに企業側がどこまで対応できるのか、労働者がどこまで理解を深め対応していけるのかが施行後の課題になりそうです。